2021-08-01

ISSUE

001

CATEGORY:
Interview

LOCATION:
Tokyo

スペキュラティヴデザイナー・川崎和也が挑む AIとサステイナブルファッション loftwork.com ニュース・コラムより

Text by Kassy Cho

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スペキュラティヴデザイナー・川崎和也さんは、子供の頃から、規則というものが大嫌いでした。特に、生徒に同じ制服を着させる校則に、満足がいかなかったといいます。

高校に在学中、自らユニフォームショップに問い合わせをし、コラボレーションが出来ないか問い合わせたこともありました。制服のジャケットに刺繍をいれ、シャツの丈を少し短くすることで、自身の制服をカスタマイズすることを思いついたのです。

幼い頃からずっとファッションが好きだったという川崎さんは、2012年に出身地である新潟から上京、現在28歳です。慶應義塾大学に通いながら、生産過程における無駄を出さないサステイナブルなファッションのあり方を考えることに情熱を燃やすようになりました。

今年2019年には、日本を代表するビジョンや才能の持ち主を30人選出する企画「30 UNDER 30 JAPAN 2019」1で、サイエンス部門を受賞。99のデザインリサーチの実践例をまとめた『SPECULATIONS 人間中心主義のデザインをこえて』2の監修も務めています。

バイオアーティスト・福原志保さんとの出会いも、大学に通っていたこの時期のことでした。故人のDNAを木に埋め込んで「生きた墓標」とする福原さんのプロジェクトに触発され、バイオテクノロジーを導入することで、よりサステイナブルなファッションをつくることを思いつきました。

2017年、3D技術とバイオマテリアルを組み合わせた作品『バイオロジカル・テイラーメイド』で、川崎さんはYouFab Global Creative Awards 20173でFinalistに選出されました。この作品は、バクテリアセルロース*と3D技術を組み合わせて制作した、テイラードスーツです。バクテリアセルロースを培養し人間の身体に最適化させることで、製造過程でゴミを一切出さないことに成功しました。

「日本のデザイナーとして、YouFab Global Creative Awardsの取り組みには驚くものがありました」と川崎さんは語ります。「審査員を含め、受賞者は非常に国際的で、将来の海外とのコラボレーションの可能性が拓けました。」



「このジャケットは生きています。眠っている状態に近いですね」と川崎さんは笑います。

買い物が全てオンラインですませられる未来の世界では、実際の店舗はレーザーカッターや3Dプリンターの設置された、デザインラボのような場所になるのでは、と川崎さんは予測します。このデザインラボでは、一人一人の身体に完全にフィットする、テイラーメイドの服を作れるようになります。こうした未来が実現すれば、布の切れ端ひとつ無駄はでず、完全にサステイナブルなファッション産業が可能となる、と川崎さんは語ります。

こうした考えのもと、川崎さんは現在、テジタルテクノロジーの応用によって、個人個人にぴったりな衣服を効率的につくることができるシステム『Algorithmic Couture』4の開発に取り組んでいたメンバーと共に、「Synflux」というサービスの事業化を予定しています。これは、日本の着物にみられるような直線的なパターンをベースに、AIを活用することでファッションの製造過程に関わる無駄を無くすことができるサービスです。



長方形の布に曲線のあるパターンを使用すると、布の約15%が端切れとしてゴミになってしまいます。「Synflux」では、機械学習のアルゴリズムを使用したパラメーターに則って、身体のサイズにあった最適なパターンを生成できます。

ここで作られるパターンは、着物のような直線的なものになります。これにより、端切れとなり捨てられるゴミを、出来るだけ減らす仕組みです。AIを用いてパターンを3Dに書き起こすことで、サステイナブルなだけでなく、着て心地よい衣服へとデザインされていきます。

量産型ではなくオーダーメイドで衣服を制作することで、製造過程も効率化し、エネルギーの消費も抑えられます。ル”との関係性やユーザー実践との交わりという点で、多様な解釈の可能性を秘めているからだ。唯一無二のバーチャルデータとして希少性が付与された衣服、身に付けられない衣服。ともすると、それはコレクション作品を収蔵するミュージアム的な実践とも共通項を見出せる。一方で、ミュージアムのように作品の時間を完全に止めるものとも限らず、何かに“使われる”可能性も有する。



衣服を“使う”というのは、フィジカルには衣服の形が先立ち、そこに個人の身体が入り込む。SMLとサイズはあれども、 “同じ”衣服の範囲は規定される。そして衣服は“使われる”ことで布地には着用者の皮脂がこびりつき、物理的な劣化をする。着用者と出会った他者の記憶のなかで、写真やSNSの投稿のなかで、着用者のイメージが衣服に付帯する。

バーチャルな衣服はどうなのだろうか。NFTによって所有者の移動を繰り返す履歴は残るが、使用の痕跡は残るのか。私たちは誰かから入手したバーチャルな衣服を纏うとき、そこに先人の存在を何らかの形で感じうるのだろうか。また、例えば私が3頭身のアバターを所有していたとして、その身体に合わせてデータを改変することは許されるのか。もしも許されるならば、それは同一の衣服といえるのか。同一なものだと認識するのだとすると、そこで同一性を担保するのはコンセプトなのか、意匠なのか。そして、所有するユーザーはそれをどこまで“使う”ことが許されるのか。それをメゾンやデザイナーは、どこまでコントロールできるのか。



NFTアートは、購入者によってスマートフォンの壁紙にされることもある。昨今ではミュージアムが名画のデジタルプリントをNFTで販売する事例も登場しているが、これは従来行われてきたミュージアムショップでポストカードを売ることと、どう違うのだろうか。そしてこういった“オリジナル”に付随する実践は、“オリジナル”の価値とどのように関わるものなのか。また、この構図がファッションにも持ち込まれたとき、従来のブランドの価値構造やフィジカルな商品といかなる関係性に置かれるのだろうか。



“Atlas of Memory” [3] もフィジカルにも作品(と言わずに商品と言うべきなのか)が販売され、いずれ誰かの手に渡る。そしてNFTでは動画作品が販売される。これは、ひとつのコレクションを実用品と芸術作品に切り分ける試みとも捉えられるだろう。一方で、芸術作品としての道を与えられた双子の片割れもミュージアムに展示されるドレスとは異なり、そこにまた、アバターが纏うものとしてユーザーの介入を受けるかもしれない。



こういったユーザー実践との絡まりがあれども、デジタルデータゆえに生み出されてから何年経過しても、いくつのアバターが着用しても、色鮮やかで無臭のままである衣服。繰り返し受け継がれても、過去の着用者の痕跡は履歴としての文字情報だけ。先にバーチャルな空間での衣服を、人間の輪郭を与えるための衣服と表したものの、この痕跡の不在はバーチャルな衣服というものを極めて無機質なものとしてしまうかもしれない。Synfluxはそこにデザイナー、ロビン・リンチの色褪せたアナログな家族写真、断片的な郷里の記憶といった極めて個人的な歴史を織り込んだわけだ。これは、バーチャルな衣服における時間経過と人間の痕跡をめぐる批判的実践とも捉えうる。

オリジナルと複製物の関係、そこでのユーザー実践との関わり。こういったファッションの伝統的な問い対して、バーチャルなファッションやNFTは新たな論点を提示する。そして“Atlas of Memory”は、その嚆矢となろう。