2023-02-09
ISSUE
002
CATEGORY:
Interview
LOCATION:
SCROLL
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////2022年11月13日に渋谷パルコにて開催されたサステナブルファッションをめぐるカンファレンス「FASHION FOR THE PLANET」。株式会社ゴールドウインとSynflux株式会社のコラボレーションプロジェクト「SYN-GRID」の発表を記念して開催された本イベントでは、昨今のサステナブルファッションの潮流から、ディープテックの取り組み、惑星規模での未来に向けた議論といった多様な視点からのセッションが展開された。
今回、このイベントを振り返ると同時に、ここで展開された議論をさらに深堀り、補完し、さらなる活動へと繋げるためのクリティーク集「FASHION FOR THE PLANET EXTENDED」をお届けする。イベントでの議論をもとに、若手の研究者や活動家たちは何を受け止め、考えたのか。さらなる展開へと期待が高まるテクストを、お楽しみいただきたい。
そして今回は「FASHION FOR THE PLANET EXTENDED」のイントロダクションとして、Synflux株式会社 代表取締役CEOの川崎和也が「FASHION FOR THE PLANET」の企画の経緯やセッションの狙いについて解説する。
※イベントのアーカイヴはこちらからご覧いただけます。
ファッションの持続可能性の問題というのは、今日のファッション産業において最も考えるべき課題だと思っています。しかし、実践を中心とした議論の場は、まだまだ少ないと感じています。
また、ファッション産業の内部でも積極的に活動をしている人たちは分散していて、ファッション以外の領域との接続も十分でなく、共に議論する機会が少ないとも考えていました。そのため、Synfluxとして議論したり事業を推進するためのネットワークを構築する活動を進める必要があると考えています。そして今回、ゴールドウイン社とのコラボレーションプロジェクト「SYN-GRID」がローンチするタイミングで、これを契機に多様な議論を引き起こすことができればと、実践と議論が分かちがたく結びついたプラットフォームの試作として開催しました。
特にこの「SYN-GRID」は、Synfluxの独自技術である「Algorithmic Couture」を大量生産に展開した初めてのプロジェクトでした。「Algorithmic Couture」は2018年から開発に取り組んでいる、衣服の製造時に避けられない生地の廃棄を削減するシステムです。昨今、二酸化炭素排出削減への取り組みが加速するなかで、アルゴリズムを活用した新しいテクノロジーの社会実装を進めていきたいと考えています。
こういったタイミングで、Spiberなどのテックスタートアップやデザインスタートアップとの協業を推進しているゴールドウイン社とのコラボレーションが実現し、サスティナビリティに真摯に向き合う姿勢に強く共感しました。このサステナビリティに対する思想を共有する両社で、一緒に考える場をつくることに大きな意味があると考え、ご一緒させていただきました。
実際のイベントでのセッション構成を考えるにあたっては、Synfluxに新たに執行役員として加わったCOOの藤嶋陽子と共同で企画を練りました。まず、サステナブルファッションと一概に言っても様々なトピックや観点があるので、多様な視点から議論できるような構成にしたいと考えました。
ファッション産業の内側から見たサステナビリティという点では、様々なブランドでの取り組みや企業の実践から、国家レベルでの戦略や研究といった水準まで両面から議論できるようにしたいと考えました。同時に、大企業とベンチャー企業といった規模の違いによる役割の差異も意識しました。こういったビジネスの観点に加えて、もう少し抽象的な生態系や自然との共生といった観点まで、包括的に対象にできればと考え用意しました。
ひとつめのセッション「SUSTAINABLE FASHION TRANSITION:サステナブルファッションの現在と未来」では、京都工芸繊維大学教授・水野大二郎さん、経済産業省ファッション政策室長・俣野敏道さん、WWDJAPAN編集統括兼サステナビリティ・ディレクター・向千鶴さんをお招きしました。
僕が面白いなと感じたのは、向さんからはファッション産業では現在、既に様々な取り組みが勃興して非常に面白い状態にあるといった意見が出たのに対し、水野先生からは「まだ足りない」と持続可能性へのシフトに完全に舵を切ることが必要だと急進的な変化を待望する意見が出たことです。この2つの捉え方、ある種の対立が現在の状況を本質的に表しているのかなと。そこで俣野さんが、これらを両立するような第3の方向性を提示されていて、サステナビリティへの取り組みをめぐる状況を俯瞰するという意味で、とても良いセッションだったと思います。
続いてのセッションは、「BUILDING TECHNOLOGY FOR SUSTAINABILITY:サステナブルファッションと開発、実装、経営」と題し、株式会社ゴールドウイン/ニュートラルワークス事業部長・大坪岳人さん、Spiber株式会社 Business Development & Sustainability 部門長兼執行役員・東憲児さんと川崎も登壇しました。
このセッションは、現場からの視点の議論が非常に面白かったと思います。ビジネスとサステナビリティをどのように両立するのか、実際の開発で直面する面白さや困難をお話できたかなと。個人的には、東さんの「試しにやってみよう」という態度が大事というお話に強く共感しましたね。新しいテクノロジーやデザインにはどうしても不確実性が伴いますが、そういった実験精神を共有するコラボレーターとの協業が非常に重要なのだなと。
3つめは「FASHION MEETS SUSTAINABILITY:サステナブルファッションをめぐるコミュニティ創造」として、プロデューサーの金森香さん、株式会社CAMPFIRE共同CEO・中島真さん、アーティストコーディネーター、ライターの倉田佳子さんにお話しいただきました。
ファッションにおけるサスティナビリティは非常に重要な課題であるのはもちろんですが、議論の対象となるのがシステムやアーキテクチャ、あるいは素材や製造工程といった、いわゆる川上での取り組みで、実際にそのプロダクトを手にするユーザーとは少し遠い距離があるのではないかと考えていました。実際に洋服を選択し、着るのはユーザーであるので、こういった人たちと価値を共有し、どのように巻き込んでいくのかということが、ファッション領域においても、またSynfluxにとっても重要となります。こういったコミュニティ実践を意識的に積み重ねてきた人たちから助言をいただけたらと思い、組んだセッションです。
最後が「CARE/ MULTI-SPECIES/ REGENERATIVE:サステナブルファッションと生態系の思想」と題し、早稲田大学准教授・ドミニクチェンさん、立命館大学教授・小川さやかさん、WIRED日本版編集長・松島倫明さんをお招きしたセッションです。
ここでは狭義のファッション領域に閉じずに、発酵や微生物の挙動、あるいは惑星規模のデジタライゼーションがどのようにサステナブルなファッションに影響を与えていくかといった、大きなビジョンについて話すことができたと思います。松島さんから語られた「リジェナラティブ」といったときに、単に環境負荷を削減するということだけではなく、より人々の実践を豊かにするような方向性がありうるといったお話が非常に印象的でした。
今回のイベントではSUPER DOMMUNEで「FASHION FOR THE PLANET EXTRA」を開催し、こちらでは「THE EMBODIED BODY IN REAL-METAVERSE」というテーマを掲げました。
これを開催した意図は2つあります。まず、Synfluxがサステナブルファッションを実践をするにあたって大事にしていることに、デジタル技術の面白い応用があります。昨今、注目が高まっているバーチャルファッションであったり、僕らが取り組んでいるアルゴリズミックデザインといった視点での議論を昼のトークセッションではカバーしきれなかったのですが、できれば取りこぼしたくないという思いから、延長戦で継続して議論することにしました。
2022年10月に開催されたWIREDのカンファレンスのアフターパーティがSUPER DOMMUNEで行われたのですが、そこでDOMMUNE主催の宇川直宏さんと、これまでのサブカルチャー史を俯瞰したうえでのバーチャルファッションに対する期待についてお話しする機会があったんです。宇川さんのような現代アートからサブカルチャーまで精通している方がバーチャルファッションに注目し、僕らに3度目の「サード・サマー・オブ・ラブ」を夢見させてくれるといったポジティブなことをおっしゃっていたことが非常に印象的で。それだったら、現在、色々とプロジェクトをご一緒している複雑系研究者の池上高志さんも交えて一緒に議論できないかと思って企画しました。
また最後に付け加えておくと、SynfluxのCDOである佐野とCTOである岡本はミニマルテクノミュージック、あるいはノイズミュージックを中心としたクラブカルチャーからよく創作のインスピレーションを受けていて、音楽文化とメタバースの重なりについても視点を提示したいという意図もありました。
実際に開催してみて、一方で、昼の部ではビジネスや実践のコアについて議論し、他方で夜の部ではまだ生煮えで、不確実性が高いけれど可能性があるといったレベル感でアイデーションができたように思います。今後、Synfluxがバーチャルファッションにどのように関わっていくのかといった点は、今まさにチームで議論を交わしているところなので、多様に示唆をいただく機会となりました。
ファッションデザインを実践するとき、あるいはテクノロジーの開発をするときに僕個人として、またSynfluxとしても重要だと思っていることが、実践とセットで議論のプラットフォームをつくるということです。開発したテクノロジーがどのような機能があるか、あるいは経済的なインパクトがあるかというのはもちろん大事ですが、社会実装された後にユーザーがどのように使っていくか、どのような社会や文化がつくられていくのかといったことも合わせて考えていきたいと思っています。
そういう意味で、今回のイベントの成功は非常に嬉しく思っています。また、今後も継続していくことが重要であり、新しいプロダクトを提案するときは必ず機会を設けて続けていきたいと考えています。研究者からアーティスト、ビジネスパーソンまで多様な人々と共に考え、醸成するコミュニティへの挑戦を継続して積み重ねていきたいと思います。