2023-04-09

ISSUE

005

CATEGORY:
Critique

LOCATION:

自分たちを自分たちらしく形づくる:コミュニティの勃興からみるDesign By〜の可能性

Text by 和田夏実

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2022年11月13日に渋谷パルコにて開催されたサステナブルファッションをめぐるカンファレンス「FASHION FOR THE PLANET」。株式会社ゴールドウインとSynflux株式会社のコラボレーションプロジェクト「SYN-GRID」の発表を記念して開催された本イベントでは、昨今のサステナブルファッションの潮流から、ディープテックの取り組み、惑星規模での未来に向けた議論といった多様な視点からのセッションが展開された。

今回、このイベントを振り返ると同時に、ここで展開された議論をさらに深堀り、補完し、さらなる活動へと繋げるためのクリティーク集「FASHION FOR THE PLANET EXTENDED」をお届けする。イベントでの議論をもとに、若手の研究者や活動家たちは何を受け止め、考えたのか。さらなる展開へと期待が高まるテクストを、お楽しみいただきたい。

今回は、サステナブルファッションの価値を共有するコミュニティ醸成を議論した「FASHION MEETS SUSTAINABILITY:サステナブルファッションをめぐるコミュニティ創造」に対して、インタープリター(解釈者)として活動する和田夏実さんに批評を寄せていただいた。

※イベントのアーカイヴはこちらからご覧いただけます。

Session 3「FASHION MEETS SUSTAINABILITY:サステナブルファッションをめぐるコミュニティ創造」金森香(プロデューサー)+中島真(株式会社CAMPFIRE共同CEO)+倉田佳子(アーティストコーディネーター、ライター)+川崎和也(Synflux株式会社 代表取締役CEO)

[1]

Robertson, R. (2000). Globalization: Social theory and global culture. SAGE Publications Ltd.
https://dx.doi.org/10.4135/9781446280447

多様性に取り組もうという動きが現れたのは、1970年代環境問題を発端とする、世界の一体化とそれによる人類の課題に皆で取り組んでいくという思想[1]である。世界規模で多様性の問題に取り組むことになり、多くの共通性をもつ障害者たちにとって、大きな躍進となった。一国の中ではあまりにも少数であった個が世界規模で捉え直した時に、群となり、その存在自体の発見につながったともいえよう。ローランド・ロバートソンは、グローバル化を「世界の圧縮と世界を一体として捉える意識の深まりである」といった[1]。さらに狭義に捉えると、「世界の一体化により人類的課題に地球人として取り組んでいくという思想を最たる目標としたもの」といえるかもしれない。

さて、分散型の情報による環世界化が進む現代の「コミュニティ」という、集いの勃興は、どのように世界を変えてゆくのだろうか。

[2]

コミュニケーション・スタディーズ,監修 渡辺潤,世界思想社, 2021

Communityの語源はCommunitas、ラテン語のmunus(贈物、賦課、任務、職、義務、成果、好意)にco-(相互の、共同の、共通の)がつく、「相互に(co)与えあう(munus)」意識自体がコミュニティの核を成している[2]。趣味嗜好や身体感覚、言語、環境や思想、地域といったそれぞれのつながりによる共同体が、ひとりの中にも社会の中にも多層的に存在する。

ここでは、コミュニティの意義についての前提として、「ファッションは更新できるのか会議」の中で、座長をつとめた水野先生の言葉を引用したい。

[3]

ファッションは更新できるのか?会議,水野大二郎+ファッションは更新できるのか?会議実行委員会=編,フィルムアート社,2015,DIY→DIWO→DIFOという時代に:田中浩也、成美弘至、水野祐、永井幸輔、金森香、水野大二郎:50p

「ファッションには「流行」「慣習」という名詞のほかに、「形づくる」という動詞の意味があります。つまり、「自分を自分らしく形づくる」ということではないかと。」[3]

「自分たちを自分たちらしく形づくる」こと、これこそがある共通性により繋がり、相互に与えあう場の深まりによってうまれていったエネルギーであり、コミュニティによる実践がもたらしているものであるように思う。自分(たち)づくりの方法の探求が、多層的なコミュニティによって探求されていくことで、そこに新たな「かたち」が立ち現れる。Nothing about us without us!として挙げられた当事者による権利運動[4]は、意思決定を自分たちのものにするための運動として、主体を当事者によるコミュニティに引き寄せことで、マイノリティがコミュニティを通して積み重ね、発見していった「かたち」そのものを通して社会を変えた。

ファッションを通して、自らの身体を肯定し、存在を表明する。
コミュニティがまた、新たな「かたち」を作っていく。

領域横断的なプロジェクトをファッション分野を超えて展開してきた経験について語る、プロデューサーの金森香氏



新しい地図を描くー、本イベント中、ファッションは更新できるのか会議を行った際の心境について、金森さんは”見渡すための地図をみつけないと舵をきれない”と述べている。ひとつの産業には当然ながら多数のステークホルダーがいて、そこには熱源となる人がいる。人と人との引力は、新たな流れや力をうみだし、プロセスが再認識され更新されていく。

インターネットの登場によって変化した、ブランドとオーディエンスの関係もまた、相互に贈与しあう関係性である。自分を形づくるための装いを選択し、その前提としての意思と社会的責任を問う。こう在りたい、という自己の体現としてのファッションブランドに、思想の有無や環境責任を問うことは自己を形づくる上で、とてもシンプルなことのように思う。


現代ファッションの状況を踏まえ、コミュニティについて語る、アーティストコーディネーター、ライターの倉田佳子氏



クラウドファンディングがみせた新たな景色としてのつながりによって、想いに共感したファンの名簿ができあがる。消費としての購買体験ではなく、応援と信頼によってつながり、未来に投資する、繋がり方を変えていくことで、相互関係が変容する。

[5]

推し活サポ 『Amara』を利用してYouTubeに字幕をつける
https://su88ort.fun/?p=9

個人的に、私が好きな情報保障での関係性のあり方として、アイドルのYOUTUBEに各国のファンが字幕をつけていくという推し活[5]がある。それぞれの得意領域を活用して、多言語化を介して推しを広めていく。1対多数の関係性が故に無理がなく、推しによる連帯が、その領域を深め、そして広げる。今後さらに、金銭的な関係だけでない関わりの余白が広がることで、それぞれブランドとの関係が編まれていく予感がする。

クラウドファンディングの可能性について語る、株式会社CAMPFIRE共同CEOの中島真氏

[6]

サステナブル・ファッション ありうるかもしれない未来,水野大二郎、Synflux 編著/川崎和也、佐野虎太郎、平田英子 著,学芸出版社,2022.09

冒頭に挙げたように、人権問題と環境問題は、地球規模の問題として扱われることで進展してきた。多様な身体や思想、スタイルを肯定していく取り組みは、コミュニティの深化によって育まれ、かたちづくられていく。環境問題もまた、次世代のデザイナーとともに、コミュニティから新たな地図を描くことで、ありうる未来を想像・思索し、素材の検討やリユース、循環型設計などの具体的な実践をもとに持続可能な未来をつくりだすことができる[6]。選ぶ、ということは、主体を自らに引き寄せ、自らを発見していくプロセスであり、つくるということは地球の未来を思索し、かたちづくっていくことである。

昨日は何時間、生きていましたか───
本イベントが行われたPARCOの1986年の広告に倣って、服を買うという選択のときめきや高揚感を「生きること」として表すならば、現代において、これからの未来をどうみつめ、社会課題に向き合いながら、明日を生きていくことができるだろうか。そしてコミュニティやブランドは、どのような明日を創りだしていくのだろうか。

和田夏実(わだ・なつみ)

インタープリター。ろう者の両親のもとで手話を第一言語として育ち、視覚身体言語の研究、様々な身体性の人たちとの協働から感覚がもつメディアの可能性について模索している。LOUD AIRと共同で感覚を探るカードゲーム《Qualia》や、たばたはやと+magnetとして触手話をもとにした繋がるゲーム《LINKAGE》など、言葉と感覚の翻訳方法を探るゲームやプロジェクトを展開。東京大学大学院 先端表現情報学 博士課程在籍。同大学 総合文化研究科 研究員。2016年手話通訳士取得。《an image of…》《visual creole》 "traNslatioNs - Understanding Misunderstanding", 21_21 DESIGN SIGHT, 2020